関西で「紫陽花(あじさい)寺」と聞けば多くの人がその名前を挙げる高野山真言宗の寺院、矢田寺(やたでら、正式名称:金剛山寺/こんごうせんじ)。奈良市の南西部、矢田丘陵に位置し、季節には紫陽花が咲き誇り、シーズン中は平日でも数多くの人が訪れる観光名所ともなっている。
天武天皇の時代に創建され、当時は48坊あったというが、現在は矢田寺北僧坊・矢田寺大門坊・矢田寺念仏院・矢田寺南僧坊の4つの僧坊を総称して矢田寺と呼んでいる。
なかでも日本最古の延命地蔵菩薩を本尊に祀る北僧坊は、平成5年(1993)まで参拝客に宿泊を提供する宿坊を備えていた。しかし火災ですべてを焼失。以降、宿坊の再開を悲願としている。
寺本法昭(のりあき)住職は、先代の跡を継いでから構想を練り続け、図面を作成するなど、宿坊再開の準備を着々と進めている。
「かつては多くの方々と寺院が、そして参拝客同士が、宿坊を舞台にすばらしいご縁で繋がっていました。それがなくなって20年以上がたちます。しかし寺の将来、人の輪の未来を考えたときに、何としても宿坊を再開させて、寺と人、人と人との繋がりを取り戻したいと考えたのです」
宿坊を再開することでつながりを取り戻したい
そう考え始めた時に、全国寺社観光協会が監修する「テラハク」のスタートを知り、参加を決意。「宿坊を再開することで、“お寺が楽しい”という人を増やしたいのです。参拝を楽しみに石段を登ってくる人が増え、宿坊に集うようになれば、そこから新たな人の繋がりが生まれます。お寺とはそのための場所であるべきだと思うのです」
北僧坊は現在、開門中に食事を提供し、評判を呼んでいる。特にじっくり煮込む寺カレーは人気だ。
「宿坊で食事を提供するようになれば、宿泊者に精進料理を知ってもらえるだけでなく、調理するスタッフを育てることも必要になり、それが食の文化伝承にもなるはずです」
「季節の紫陽花だけでない矢田寺の魅力を発信していきたい、丘陵地という立地を生かした眺望も知ってほしい、くつろげる入浴施設もできれば整備したい」
宿坊再開を期する寺本住職の未来予想図が、やがて実現する日を心待ちにしたい。
高野山真言宗矢田寺 準別格本山北僧坊
住所:奈良県大和郡山市矢田町3516
TEL:0743-53-1531
【寺社Now20号(平成30年7月発行)】より
※情報は掲載時のものです
(諸般の事情により、2021年5月の時点では、宿坊はまだ再開されていません)