マーケットリサーチ。そしてチャレンジ!
それは2019 年11月、西林寺の安武住職が吉塚商店街の連合組合会長(鶏肉卸売や地元で外食事業を展開しているトリゼンフーズ株式会社の河津善博会長 宅を法事で訪問したときのこと。
その席で商店街活性化の話題になり、住職は、外国人を呼び込むことが商店街の未来につながるのではないかと、切々とその思いを吐露し、提言した。会長自身も以前よりミャンマー支援を行っていた背景があり、意気投合。そこに、偶然別の角度で外国人居住者の課題解決を通して吉塚の可能性を探っていたシーアンドイー株式会社・魚住昌彦氏が加わり、活性化へ向けた話し合いがスタートした。
「調べてみると、吉塚には外国人向けの専門学校が4校もあり、生徒数は全校でおよそ900人。そのほか、商店街の最寄り駅から工場などへ送迎バスが出ているため、外国人の技能実習生が数多く居住していることもわかりました。ところが彼らは、工場と自宅、学校を行き来するだけの生活を送っていて、地域の日本人との交流がほとんどなく、日本にいながら“生きた日本語”に触れる機会がないこともわかったのです」
そこで、衰退著しい吉塚商店街を、アジアの人たちに注目した再生プランによって活性化することを目標に据えた。そうすることで技能実習生や語学留学生も集うことができ、彼らの同郷の人たちの輪もできる。
チームは、アジアの玄関口ともいえる福岡という土地柄を活かしたそんな異国間交流型の「吉塚市場 リトルアジアマーケット」の事業計画をまとめ、経済産業省「令和2年度 商店街活性化・観光消費創出事業」での採択をめざしてチャレンジすることを決意。眠っていた商店街が動き出した。
メンバーには商店街会長をはじめ、現場でたたき上げられてきたビジネスのプロフェッショナルたちがいる。偶然にもコアメンバーが同じ時期に同じ事を考えていたから動き出せたとはいえ、これまで商売とは無縁だった寺の住職が、そうしたチームに加わることにプレッシャーはなかったのか。
「平成20年(2008)から続けている西林寺のキャンドルナイトライブでは、クリエイターなど多彩なメンバーに集まっていただいています。10年以上にわたって異業種のみなさんに揉まれることで、お寺の経営だけでは学べないさまざまなノウハウや体験を蓄積することができたと思います。ブレないコンセプトと信念があれば、共感が広がっていくことを何度も実感しています。こうして得た知見を応用して社会に貢献する、それが私にとってはリトルアジアマーケットのプロジェクトだったんです。もちろんプレッシャーが全然なかったわけではありません。でも、そんなプレッシャーよりも、外国の方々や地域のために何ができるのか、何かしなければという思いが勝ったんです」
思いは通じた。令和2年9月、チームの知恵が凝縮した吉塚商店街の「リトルアジアマーケット」化計画は、経産省が公募した事業での採択が決定。吉塚の未来を占うプロジェクトが、いよいよ実現へ向けて歩き始めた。