思いを込めた、3つの魅力(温泉・食・おばあちゃん家)
慈眼院は、古くから峠を越える旅人や遠来の参拝者を泊める宿坊の機能を果たしてきた。幕末の安政4年(1857)には、初代日本総領事タウンゼント・ハリスが日米修好通商条約締結の話し合いに向かう道中で泊まったことでも知られている。
先々代の住職夫人が、境内の一角にユースホステルを開業したのは昭和60年(1985)のこと。しかし格安個人旅行の走りだったユースホステルのブームは、時代と共に次第に落ち着いて下火になっていく。
やがて平成19年(2007)、住職を務める稲本さんの父と母が温泉を掘削した。宿を畳んで温泉にでも浸かってのんびり老後を過ごすつもりだった。
しかし、宿のメインバンクでもある地域金融機関に勤めに出ていた財務のプロフェッショナルでもある長女の稲本さんは、温泉を活用して過疎地寺院の生き残りを賭ける事業再構築の計画を描いた。そしてまずは、お寺と宿の経営を切り分けるために「株式会社ハリスの湯」を設立。ユースホステルを「モダン宿坊 禅の湯」にリニューアルして新規顧客の獲得を目指した。
平成22年(2010)には、意を決してそれまで務めていた金融機関を退社し、平成29年(2017)には社名を「株式会社ZenVentures」と変更して代表取締役となる。お寺と地域と共に生きていく覚悟を決めた。
それでは、寺院と地域との関係を探る前に、ユーザー目線で旅の宿としての「禅の湯」を紹介しよう。
まず、源泉かけ流しの湯は、とびっきりの魅力となっている。加温や加水なしの自家源泉かけ流しの湯は、カルシウム・ナトリウム・硫酸塩の弱アルカリ性で皮膚炎などに良いとされ、肌がスベスベになると評判だ。山々に囲まれた朝の清々しさを感じてほしいと、朝風呂は5時から利用できる。
内湯、露天風呂、そしてさらに、温泉から立ち上がる蒸気を活用した敷石サウナ「石の湯」がある。経営者の稲本さん自身、ちょっと疲れたり体調が万全でないときにこの敷石サウナに入って体調を整える。地域の人たちもその効能を知っているので常連となって通ってくる。温泉が地元の人たちを呼び、集いの場にもなっている。