寺院を残すため門徒会館を宿坊に
町がにぎわっていた当時は檀家数も300を超えていたという。しかし、まちの人口が減少するなかで15年ほど前からその数が年間5、6軒のペースで減り始め、現在は往時の3分の2程度となっている。
「庫裡の改修をすることになったのが、ちょうど人口減少が顕在化し始めた時期でもありました。悩んだ結果、寺の将来を考え、いずれ宿坊として活用できる施設にしたのです」と話すのは坊守の落合誓子さん。
寺院運営が立ちゆかなくなってから手を打ったのでは遅い。そう考えて宿泊機能を整備し、まちを離れて墓参りなどで帰郷する門徒に利用してもらうことからスタートした。
宿坊としての運営は平成29(2017)年から。翌年に珠洲市を舞台に能登国際芸術祭が開催され、その際に市関係者からの勧めもあり、旅館業として船出した。地元を離れた人たちが、盆暮れや正月に帰ってきたときの宿の機能も果たそうとしている。
「檀家数は今後さらに減っていくでしょう。そうして寺が立ちゆかなくなるのが先か、運営が軌道に乗るのが先か。気持ちはそれほど切羽詰まっていますよ」と坊守は語るが、宿坊の評判はすこぶるいい。スタートから3年、リピーターもかなりいる。理由は大きく2つあり、ひとつは料理だ。乗光寺では代々、坊守が寺の味を受け継いでいる。
「宿坊をやるからには、中途半端なことはできません。寺に伝わる味をベースに、能登の季節の食材だけで料理の内容を組み立てています」
メニュー構成やボリュームも常に試行錯誤を重ね、乗光寺宿坊はすでに珠洲の食を象徴する宿として認知されている。