Wワーク&ふるさとテレワークを支援!噂の眞教寺カフェ&宿坊に泊まって学んだ「経営マインド3つのポイント」

四国の玄関口、香川県高松市西部の国分寺町にある眞教寺(真宗興正派)第15世住職・佐々木剛氏は、『エンディング産業展』ほかスポーツ・健康・外食・レジャー・冠婚葬祭などさまざまな展示会を主催するTSO Intenational株式会社の代表取締役というもうひとつの顔を持つ。東京で事業を興し、ふるさとの香川に戻って事業と寺業を両立させている仏教界最強のビジネスマン住職の一人とも言える佐々木氏は、先代から引き継いだ経営困難と思われた寺院の改革に挑んでいる。
改革ののろしとなるのは、地域人材と食材を活用したカフェレストラン「萬燈(まんどう)珈琲店」と「眞教寺 萬燈宿坊」だ。今回は、これからの寺院経営に、そしてあらゆる事業経営に必要となる経営者マインドを佐々木氏に学ぶ。

高松市国分寺町は、天平年間に讃岐国分寺・国分尼寺が建立され、かつての讃岐国の政治・文化の中心地だった地域。その南端にある伽藍山麓の眞教寺は、創建から400年以上の歴史を有する寺院だが、重要文化財があるわけではない。にもかかわらず、朝から寺院の駐車場には続々と車が入ってくる。目的は「萬燈(まんどう)珈琲店」だ。

観光にもワーケーションにも便利なカフェ&宿坊

萬燈珈琲店は、寺院に隣接する民家を改装して平成29年(2017)秋にオープンした。天井が高く長居できそうな空間で、香川県産の野菜を具にたっぷり使った石窯ピザやパスタが名物、時には煮込み料理もランチに登場する。オリジナルブレンドのコーヒーや中国福建省産の白茶も好評だ。何より、同町周辺にこのような店がないため、週に何度も訪れる町の人もいる。

薄くスライスしたメルバトーストとドリンクバーがセットのパスタランチ1,000円。季節の食材を使ったパスタは2種類用意

金曜、土日祝限定のピザランチ(1,200円)はファンも多い名物。ピザはマルゲリータと日替わりの2種があり、取材時は地元産のアスパラガスだった

店内の石窯でピザを焼くのは住職の義弟、佐々木純一副住職。毎朝寺務を終え、店に入っている

時にはストゥブの煮込み料理もランチに登場。取材時はロールキャベツだった。ドリンクバーとフォカッチャ付きで1,200円

木製家具やソファをゆったりと配置した店内は、時間を忘れて会話に夢中になる人も多いそう

店内奧にセルフジムがあり、カフェ利用者は無料で利用可能

2階にも広いスペースがあり、今後はコワーキングスペースとしての活用を検討している

萬燈珈琲店運営のために新たに雇った地元出身の新居晶子(にいあきこ)さんと佐々木副住職

眞教寺と寺の駐車場との間にある民家をリノベーションして店舗に。寺院のある場所はかつて萬燈と呼ばれた地域で、その名を冠した

カフェに続き、翌平成30年(2018)11月に誕生したのが民泊宿坊。本堂から続く門徒会館の一部に和洋計5室があり、食事は隣接する萬燈珈琲店の産直食材メニューのほか、共有ダイニングキッチンで自炊もOK。また、レンタサイクルがあるので、田園風景にため池が点在する香川らしい景色をサイクリングするのも、ここならではの過ごし方だ。さらに、宿坊のすべての部屋と萬燈珈琲店はフリーWi-Fiを完備しているので、静かな環境の中でワーケーションができる。加えて門徒会館1階の広間が仕事スペースとして使えるほか、萬燈珈琲店ではドリンクと併設のジム利用が無料。
このようにいろいろな使い方ができるとあって、開設から2年が過ぎ、旅行者から門徒まで、幅広く利用されている。

本堂横が宿坊の玄関。奥で本堂とつながっている

白を基調にした2人用の洋室

1人用の洋室は角部屋で日当たりがいい

茶室のような1階の和室

1階の広間は自由に使える。研修などでも利用できるよう、プロジェクターも用意

宿泊者共有のダイニングキッチン。調理器具も一式そろっている

眞教寺改革の経営マインドとは

萬燈珈琲店も宿坊も眞教寺の経営だが、運営はTSO International株式会社。この会社は佐々木氏が経営し、仏教界では名の知れたエンディング産業展や石材・霊園産業展をはじめ、ASEAN地区最大級のスポーツ・健康産業展示会SPORTECといった国際見本市も手がける、日本では数少ないプロの展示会プロデュース企業だ。東京に会社を設立したばかりの平成23年(2011)、佐々木氏は先代住職の死去を受け、眞教寺の住職として高松に戻ることとなる。その際に、寺院経営と会社経営を両立させるため、自身がダブルワークできる環境を整備。さっそく住職としての仕事もスタートさせるのだが、その第一歩は、将来を見据えた寺院経営の改革だった。ここからは、佐々木氏が進めた改革の3つのポイントを紹介していく。

■ポイント1:収支把握と未来予想は出発点

経営改革のために佐々木氏がまず行ったのが、収支の把握。お布施、墓地の販売や管理で得られるお金、永代供養の費用まで細かく数字を調べていった。この数字がわからないと、寺院の将来像など見えてこないと考えたからだ。

「寺院の収支を把握した段階で見えてきたのは、ご門徒さんが少なくても経営が成り立つ寺院にしていかないと、近い将来存続が危うくなるということでした。そこで収支に今後の門徒の減少数を考慮し、このままだと何年後に経営が傾くのかをはじき出したのです。自坊のような寺院はご門徒さんありきで経営が成り立ってきましたが、先代の頃からすでに、少しずつご門徒さんが減ってきていました。これ以上門徒数が減ると、途端に経営は厳しくなります。そこで寺院の将来のためには、自力で運営できる体制に早急に方向転換する必要性を感じ、小さな事業をいくつか立ち上げて、経営していく方針に行き着きました」

収支を把握し、そこから見える寺院の将来像を予測したら、右肩下がりが見えた。そこで寺院経営とは別の事業を模索。近年会社経営の現場では多角化経営は生き残り戦略の要だとも言われるが、その方法論を寺院経営に当てはめたのだ。次は事業計画の立案、ということになるが、佐々木氏は10年計画を立てることにした。

寺務所の一角に設けられた「TSO International株式会社」のオフィス。佐々木氏は寺務のあとこちらで経営者として忙しく過ごしている

■ポイントその2:やるべきこと、費用を踏まえて計画

「10年計画は、寺院経営の収支、寺院改修の時期と費用、また費用の捻出方法も検討したうえで、10年後にどんな寺院になっているかという具体的なビジョン設定です。といっても、一度計画を立てて終わりではなく、毎年の微調整も必要です。眞教寺の場合は10年を5年ごとにわけ、5年後に見直しの可能性も想定して計画を立てました」

平成24年(2012)から一年間、立てた計画に沿って寺院を経営し、その期間で年間のキャッシュフローを正確に把握。そこに寺院の修理などまとまったお金が必要な案件を照らし合わせ、いつ、何をしていくか緻密に計画を練った。決まったのは、折り返し地点に当たる平成29年(2017)に中心となる寺院本堂の大規模改修をすること、それまでの5年間には、鐘撞き堂の修復や墓地の整備、納骨堂の設営など、毎年一つずつやっていくこと。そしてこれらの大半を寺院の布施収入と少しばかりの門徒からの寄付で実施。

「住職となった当初は、ご門徒さんの数すら知りませんでした。そこで門徒数を調べ、そこからお預かりするお金のうち、毎年どのくらい貯金できるか計算したのです。すると毎年少しずつなら寺院の修復などに充てられることが見えてきたので、計画に盛り込みました」

■ポイント3:新事業は、寺院からお金の動きを切り離す

計画では、平成29年の寺院改修と同時に新事業も始動させることにした。改修した庫裡は会館として貸し出せるようにし、併せて同年のカフェ開業、翌年には宿坊の開設だ。宿坊は、庫裡改修の際に利用目的のなかった2階を中心に整備。庫裡の改修と同時に整備することで、コストを最小限に抑えることができた。また宿坊を実際に運営していくにあたっては、世界各地のバケーションレンタルなどの民泊で当時急成長していたエアービーアンドビー(エアビー)を活用することにし、設備などもエアビーの基準に合わせた。ここにも佐々木氏の経営マインドが反映されている。

「既存の仕組み(プラットフォーム)で素晴らしいものがあるのなら、それを活用する。これもビジネス的には当たり前の手法だと思います。田舎の小さな寺院が未経験で宿泊事業を始めても失敗する可能性が高い。だから実績も方法論も確かだと思えるエアビーで運営していくと決め、そのレギュレーションにのっとっていけば無理なく開設に漕ぎつけることができると考えました」

これら新事業は、先述のように佐々木氏の会社に運営を委託。その理由を佐々木氏は「寺院からお金の動きを切り離すため」と言う。

「例えばこれからは、葬儀が小規模になるでしょう。そうなると、これまでのように大規模な葬祭会館は需要が減ります。そこで寺院の門徒会館を、小規模葬を必要としている方や葬儀会社に貸し出せば、寺院は利用料を得ることができます。将来的にこのような会館運営ができることも想定し、改修計画を立てました。同時期にカフェと宿坊の開設も計画したので、それらが会館利用の付加価値となることも想定してのことです。さらに、寺院が人を雇って新事業をやっていては、人件費ばかりがかさんでしまいます。それを避けるために私の会社に業務を委託し、会社からは賃料を得る形にしました。そのうえで委託費用と賃料を相殺できるようにし、寺院経営からお金の動きを減らしていったのです」

収益事業をすべて寺院から切り離すことで、寺院がご門徒さんのための仕事に専念できる。加えて、委託先が寺院の人間の会社ならば、思いがブレることもない。この寺院経営からお金の動きを切り離す考え方は、次の10年を見据えた新たな計画でも踏襲している。それが門徒の会員制度創設だ。

「毎年本山に納めるお金をご門徒さんに預かりに行きますが、ほとんどが年末の報恩講というお勤めと一緒に行っていました。ご門徒さんの中には、お金をもらうためにお参りに来てくれていると思う人もいて、ここにとても違和感を感じていたのです。報恩講は大切な行事ですから、お金のことを切り離したい。そう考えた時に、寺院が会員制度をとり、年に一度お預かりする会費として、本山へ納めるお金も含んだ金額を設定してはどうだろうと思い付きました。そのうえで会費を銀行振込にすれば、報恩講の際にお金を預かりに行かなくてよくなりますから、僧侶はお勤めに集中できるし、ご門徒さんも、我々がおうかがいすることにちゃんと意味を感じてくれます。もちろん会費は、萬燈珈琲店のドリンクチケットや会館利用料が含まれるなど、ご門徒さんのメリットを明確にしたうえでいただきます」

カフェと宿坊という収益事業を寺院経営とは別にした時と同じように、正しい形で宗教活動をするために、寺院の活動からお金の動きを切り離す。そこに、寺院の資産であるカフェや門徒会館の活用を付加していく。新たな寺院経営の形だ。ゆくゆくは、「今後はご門徒さんから寄付を一切いただきません、寺院の維持や活動はすべて会費でまかなっていきます。みなさんは会員ですので、いつでも好きなときに寺院へ来てください」と言えるようにしたいと佐々木氏。

「会費を払っているのだからカフェへコーヒーを飲みに行こうか、とご門徒さんが動いてくれるようになればうれしいですね。来ていただけることで、寺院へ相談しやすい環境も生まれると思います。また、寺院のある国分寺町では、若い世代が町を離れ、高齢者の割合が多くなっています。このままだと、門徒が亡くなったらご家族と寺院との関係も消滅してしまうかもしれません。そこで会員制度にしていれば、ご家族が町外から帰省した際にカフェを利用してくれる流れも期待できます。すると寺院側は、ご門徒さんの家族ともちゃんとつながることができます」

門徒や地域の人のためにも、寺院経営をおざなりにはできないと語る佐々木氏

ここまで見てきた眞教寺の改革は、寺院とは何なのか、誰のためにあるのか、を問い直した結果として生まれたように感じる。大切なのは
1.寺院が宗教活動に専念し、今後も存続していけるよう、別事業で収益を上げる
2.それら別事業を外部へ委託し、寺院は事業に直接関わらない
という2点を守ることだと言う佐々木氏だが、自坊の改革を通して感じる、地方寺院が今後も存続していくために必要なこととは何だろうか。最後に聞いた。

地方寺院の行く末は、数字の正確な把握がにぎる

「地域の寺院ほど、数字をしっかり見る必要があると思います。お布施は法要と葬儀それぞれの金額の違いまで、それから納骨堂の販売、墓地の販売と管理費。これらをどんぶり勘定でやっていると、気がついたらお寺の運営が大ピンチに陥っているケースは多いと思います。自坊も最初はそうでした。自坊のような地方寺院が今後も存続していきたいと思ったら、寺院に関する数字を把握し、収支を考え、門徒やお布施の減少率も計算して、このままだとあと何年後にどうなるかを理解し、将来へのビジョンを考えることは不可欠ではないでしょうか」

この作業はそれほど難しいことではないと佐々木氏。「最低限必要なのはノートと電卓くらいです。寺院に関わる数字を洗い出して項目ごとに整理し、年ごとに書きだしてみると、変化が見えてきます。すると、その変化にどのような対策を打つかが考えられるのです。逆に言うと、状況把握が正確にできないと収益構造が見えず、対策も立てられません」。

佐々木氏は眞教寺を、こうして変化させてきた。10年計画以前の寺院の姿とはまるで違うが、ほとんどのご門徒さんは「きれいになってよかった」と言ってくれる。その言葉で佐々木氏は、やって良かったと感じているそう。

寺院は地域のもの。地域の人たちからこれからも必要とされるためには、闇雲に事業を始めるのではなく、ビジネスマインドで寺院経営を見直すことが不可欠であることを、佐々木氏の眞教寺経営改革は実証している。

「次の10年は、自坊を起点に地域の寺院と輪になり、町を盛り上げる一翼を担えるようになっていきたい」と展望を語る佐々木氏。この先、ビジネスマン住職の改革がどのように地域へ広まっていくのか、寺社Nowは見続けていきたい。

中央が萬燈珈琲店、右が門徒会館と宿坊。左奥に見える伽藍山はかつて修験道の行者が修行をする山だった


真宗興正派 附谷山 眞教寺
住所:香川県高松市国分寺町新居852
電話:087-874-0725
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萬燈珈琲店
住所:香川県高松市国分寺町新居932-1
電話:087-899-7077
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