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驚いたことに境内の一角に、本格的なパン工房がある。パンづくりを学んだ住職が、試行錯誤のすえに生み出した「精進パン」は、健康食として熊本市内の病院でも採用されている
山懐に抱かれてぐっすりと眠り、窓辺から差し込む陽の光に目を覚ましたら、小鳥のさえずりに誘われてぶらりあたりを散策。湧き出る清水でシャキッと顔を洗い、新しい一日を歩み出す。
戻ると、これもまた素敵な朝食が待っている。住職が自ら生地をこねて焼く「精進パン」は最高のご馳走だ。境内の一角に本格的なパン工房があり、専用のオーブンも備えている。熊本県産の小麦粉と南阿蘇の地下水を使い、毎朝のように焼いている。
食パンがおよそ10種類。きな粉やゴマを混ぜたもの、あん入りや、米粉や全粒粉のパンもある。コロナ禍以前は外国人ゲストに「ビーガン(完全菜食主義)」として大好評だった。地域の病院からも望まれて届け、喜ばれている。
「素朴なものしかありません。でも、それが一番のもてなしなのかなと感じています」と小林住職。
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朝食はスープやサラダ、スムージーと共に住職手作りの「精進パン」が楽しめる
熊本地震による建物の被害は、災害復旧に来た専門家のアドバイスや指導を受けながら、住職みずからが図面を引き、大工や左官仕事をこなした。立面図の作成をクラウドで発注するなどITも最大限に活用した。書類仕事もこつこつとこなし、いわゆる民泊ではなく、旅館業法での簡易宿所としての営業許可も取り付けた。
本堂の再建もようようやく叶った。寺院の継承を期して、納骨堂の整備も検討している。お寺の潜在パワーを活かした可能性を模索し、チャレンジしようとしている。
「この環境を気に入った全国の方に安らぎの場として納骨していただき、またご先祖様に会いに南阿蘇へ来ていただければと思います。そうした循環が生まれることで、村もきっと元気になります。訪れる皆さんを優しく包んでくれるのが、この阿蘇の大地なんです」
1日1組の宿。ゆったりと流れる時間。元気が出る野菜と住職夫妻。人々の日々の営みをやさしく見守ってくれる、四季折々の阿蘇山。訪れた人は、お寺の宿坊に泊まること、そして何よりお寺というものの魅力に、きっとやみつきになる。
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本堂脇の建物を改装して宿坊とした。ロビー兼談話室には、まるでわが家のような居心地の良さがある。訪れた人がここを拠点に動けるよう、南阿蘇の観光に役立つパンフレットなども置いてある
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宿泊スペースは築150年近い建物の柱などをそのまま使いながら、モダンな仕様にしたやわらかな雰囲気
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ベッドには畳を使っていて、障子を開けると、そこには阿蘇の大自然が!
真宗大谷派 月象山了廣寺(げっしょうざんりょうこうじ)
住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村久石427
TEL:0967-62-9554
HP:https://www.ryokoji.or.jp/
【寺社Now22号(平成30年11月発行)】掲載記事を元に再構成