この夏、大阪・中之島にパワースポット出現!世界遺産 京都 醍醐寺〈開創1150年記念 醍醐寺 国宝展〉【アート系TVプロデューサー☆セイジィ・キヨフジのプレス!プレス!プレス!】

文:セイジィ・キヨフジ

アート系TVプロデューサー

寺社関連の美術展・展覧会のプレス(記者発表会・特別内覧会)を直撃!

プレス!プレス!プレス!
スケジュール帳を開くと、連日〝プレス〟の予定で埋まっている。

NHK『日曜美術館』をはじめとするテレビ番組の制作を中心に、アーティストや展覧会の取材はもとより美術館の企画協力なども手がけているせいか、ありがたいことにあらゆるジャンルの美術展や展覧会のいわゆるプレス(記者発表会、特別内覧会)のご案内を頂戴する。

正直な話、個人的にピンとくるものとそれほどでもないものとがごちゃまぜに混在しているけれど、仕事柄、個人の趣味はさておき可能な限りお邪魔して視野を広げ、視聴者の皆さんに還元しようと努めている。全国寺社観光協会が運営しているこの「寺社Now」では、寺社に特化したメディアということで寺社関連の美術展や展覧会のプレスにフォーカスしてレビューしていこうと思う。

ということでさっそくだが今回は、きたる2024年6月15日(土)~8月25日(日)大阪中之島美術館(大阪市北区)で開催される京都・醍醐寺の大規模名宝展「開創1150年記念 醍醐寺 国宝展」をピックアップ!

桜の開化直前、太閤秀吉「醍醐の花見」で知られる名刹、総本山醍醐寺(京都市伏見区)霊宝館に鎮座している国宝《薬師如来坐像》の眼前で行われた記者発表会を私見を交えて速報する。

▪「2024醍醐寺国宝展」の醍醐味
(1) 京都屈指の桜の名所が75,000点もの国宝・重文を有する理由
(2) 大阪・中之島にパワースポット出現!?
(3) イチバン気になる俵屋宗達「舞楽図屏風」

記者発表会は、国宝・重文75,000点以上を含む約15万点もの寺宝を収蔵している総本山醍醐寺の霊宝館で開催された。前庭には、東西24m、南北20mに枝を廻らせて咲き誇る「醍醐大しだれ桜」(樹齢180年)のほか40本以上の桜があり、季節には圧巻の光景となる。[photo by セイジィ・キヨフジ(上段)寺社Now編集部(中段・下段)/ 撮影:2024年3月25日]

国宝《薬師如来坐像》前で開催された記者会見には、2023年12月に真言宗醍醐派総本山醍醐寺〝座主(ざす)〟に就任した壁瀬宥雅(かべせ・ゆうが)座主、大阪中之島美術館・菅谷富夫館長ならびに企画監修にあたった大阪市立美術館・内藤栄館長(専門:仏教工芸史)が登壇した。進行は、醍醐寺執行・仲田順英師(写真左)。上段の仏像は左から、重要文化財《閻魔天騎牛像》、国宝《木造薬師如来及両脇侍像(脇侍〈月光菩薩像〉・〈薬師如来坐像〉・脇侍〈日光菩薩像〉)、重要文化財《帝釈天騎象像》[photo by 寺社Now編集部]

1. 京都屈指の桜の名所が、75,000点もの国宝・重文を所蔵するワケ

京都市伏見区に所在する醍醐寺真言宗醍醐派の総本山で、京の都の南東に広がる醍醐山全体を寺域とする大寺院である。西国三十三所第11番札所にもなっている山上は「上(かみ)醍醐」、裾野を「下(しも)醍醐」という。現在、参詣者がぶらりと観光で訪れている下醍醐から、山上の上醍醐へは、約2.5kmの山歩きだ。

この広大な寺域を誇る醍醐寺には、国宝75,522点重要文化財425点、その他未指定を含めると仏像、絵画をはじめ約15万点にも及ぶ寺宝や伝承文化財がある。それにしてもなぜ、これほどまでに広大で、膨大なお宝を有しているのだろうか!?

国宝 唐門 [photo by 寺社Now編集部]

 

そもそも真言密教の拠点寺院たる醍醐寺は、874(貞観16)年、空海の孫弟子にあたる理源大師・聖宝(しょうぼう)が、醍醐山山頂に如意輪観音と准胝(しゅくてい)観音を祀ったことが始まりとされ、その後、醍醐天皇の御願寺となり、天皇の庇護の下で発展した。その後、たび重なる戦禍で寺は荒廃の一途をたどる。

それが安土桃山時代になり、座主となった義演(ぎえん)が、荒廃した醍醐寺の復興に尽力する。下醍醐は兵火によって五重塔を残して灰煽に帰してしまったが、幸いなことに上醍醐には兵火が及ばなかった。今日、私たちが醍醐寺の初期に遡る優れた文化財の数々を目撃することができるのも、醍醐寺が上醍醐と下醍醐という特殊な伽藍構成であったことが大きい。

義演は当時関白となった豊臣秀吉と渡り合い、秀吉による豪華絢爛な「醍醐の花見」を執り行う。これを契機として醍醐寺は豊臣家によって再興を果たし、桃山文化が花開く場となった。そして「聚楽第」など贅を尽くした秀吉の趣向はその後も継承され、醍醐寺は地理的条件からも数々の寺宝を有することとなった。よく知られた「醍醐大しだれ桜」に代表される京都屈指の桜の名所「花の醍醐」に膨大なお宝が伝わっている由縁である。

秀吉は大坂城を築城し、政治の拠点とした。その太閤秀吉ゆかりの京都の醍醐寺。6月15日から大阪中之島美術館で始まる「開創1150年記念 醍醐寺 国宝展」は、京都醍醐寺の寺宝が初めて秀吉のお膝元・大阪で公開されるという歴史的な意味を持つ。記者発表会の会場で、今回厳選された国宝14件、重要文化財47件を含む約90点が一挙公開されると知り、まさに歴史的事件とも言える醍醐寺展が今から待ち遠しい。

国宝 唐門と桜 [画像:醍醐寺提供]

国宝 五重塔としだれ桜 [画像:醍醐寺提供]

2.  大阪・中之島にパワースポット出現!?

今回の展覧会は「大阪・中之島にパワースポット出現!」と銘打たれている。陰陽師としても活動している私としては、これは聞き捨てならない。

醍醐寺は平安時代から鎌倉時代にかけて、高名な学僧や験力(げんりき)の強い僧侶を輩出してきたことから、密教修法(すほう)のセンターとでも称すべき観があった。修法の本尊を描くための設計図である「図像」も数多く収集している。醍醐寺だけで修練されてきた仏像や仏画、密教法具などがある。

古来より人々は、国の安泰、五穀豊穣、健康、家内安全などさまざまな願いを仏に祈ってきた。中でも密教の加持・祈祷はそれぞれの寺院や流派で極められ、独自の秘宝として門外不出とされることが多かった。門外不出で伝えられた特定の験力なるもののチカラを、中之島でぜひ体感してみたい。

国宝《文殊渡海図》鎌倉時代(13世紀)*前期展示(7月21日まで)[画像提供:奈良国立博物館]

 

さらに、「パワースポット出現!」に関しては、拡大解釈が許されるのであれば、「太閤秀吉築城の大坂城のお堀まで醍醐寺の神仏が降りてきた」史上初の展覧と捉えることもできるのではないかと考える。

記者発表会は、国宝《薬師如来坐像》の眼前で催され、特別に至近距離からの拝観が許された。国宝《薬師如来坐像》は、上醍醐の山上伽藍を構成する薬師堂創建時の本尊で、量感あふれる体型が特徴だ。その圧倒的な存在感と平安時代から千年の時を超えて多くの人々の祈念が込められた特別な木造仏の崇高さに、正直震えすら感じたことをここに告白しないわけにはいかない。

大阪中之島美術館で開催される醍醐寺国宝展では、なんとこの薬師如来坐像の頭上に飛来する仏像が単体で展示される。醍醐寺の霊宝館では通常、この飛来仏を間近で見ることは叶わない。それが今回、初めて超至近距離で見ることができるのだ!

言い方を変えると、国宝・薬師如来坐像の頭上から、飛来仏が私たちの目の前に降りてきてくださるということになるだろうか。

そもそも醍醐寺の寺宝はほとんど、醍醐山山頂の「上醍醐」に伝わってきた。室町時代の戦乱の兵火からを逃れ、数多く宝物が現在も伝わった理由でもある。それが今、開創以来1150年の時を経て、下醍醐へと下山する形となっている。

陰陽師的にこれは、信仰の対象として千年来崇められてきた山そのものから仏が神として降りてくる(あるいは神が仏に姿を変えて現れる)という神仏習合の本地垂迹(ほんじすいじゃく)が、リアルな現象として起こっていると捉えることができる。

そして今回の薬師如来坐像の頭上に飛来仏の単体展示は、醍醐寺の神仏が降りてきたことをリアルに体感させてくれる歴史的な仕掛けに違いないと、陰陽師としては想像してしまうのである。

本展では、国宝《薬師如来坐像》(写真右奥)の頭上に飛来する仏像が単体で展示される![撮影:寺社Now編集部]

3.イチバン気になる俵屋宗達「舞楽図屏風」

重要文化財《舞楽図屏風 俵屋宗達筆》二曲一双 江戸時代(17世紀)*後期展示(7月24日から)[画像提供:奈良国立博物館]

 

醍醐寺の展覧会と聞いて私が一番に思い浮かべる美術品は俵屋宗達の「舞楽図屏風」だ

一般に宗達といえば、国宝「風神雷神図屏風」(京都・建仁寺蔵)がダントツで有名である。宗達に私淑して琳派を発展させた尾形光琳も、宗達の「風神雷神図屏風」を忠実にトレースしているほどの押しも押されぬスタンダード作品と言える。しかし、私が一番好きな宗達は、ほかでもない、「舞楽図屏風」なのである。

描かれてるのは、神仏混淆(神仏習合)の時代の神楽の舞の光景。境内で神仏を祀る芸能であり、神事である。踊り手はそれぞれ神楽の仮面を着けているが、よく見るとそこには、人を超えた表情が描かれている。ここはぜひ肉眼で注目してほしい。

さらに、余白には一切余計なものは描き込まず、金箔で一面を貼り巡らせるという贅を尽くした趣向。秀吉好みに応えているかのようにも思えるがそれだけではない。画中の人物がまるで空中に浮遊しているように見える。

屏風は、左隻右隻それぞれの中央でほぼ直角に折られ、立て掛けられる。それがなおさら空間的な奥行きを与えることになる。後年、西洋美術から伝来する遠近法とは異なる、極めて物理的空間的に三次元の立体を意識させる技法と言える。この点も、図録やWEBではなく、実際に肉眼で確かめてほしい。こうした趣向や仕掛けが、超現実的で神懸かりな舞いの状況を永遠に閉じ込めた傑作と言わしめるのだろう。

俵屋宗達に関しては今になっても生没年がはっきりとわかっていないが、書家・工芸家として何点かの共作がある本阿弥光悦(1558-1637)と同時代ということから江戸初期の絵師と考えられている。したがって「舞楽図屏風」は、豊臣家による再興が始まった少し後に制作・奉納されたことになる。

会場では、宗達が「法橋(ほっきょう)宗達」としたためたサインにも注目してもらいたい。「法橋」とは本来は僧侶に授けられる称号であるが、中世以後、位の高い医師・仏師・絵師・連歌師などにも与えられた。宗達が一介の町絵師ではなく宮廷画家であったことを示している。今回出展される「舞楽図屏風」が、破格の予算によって当時最高の画家に発注され描かれた至高の一枚であることを物語っている。

以上、記者発表会の興奮冷めやらぬままつらつらと雑多な文章を連ねてしまったが、この夏、大阪中之島美術館で、そして京都・醍醐寺でお会いしましょう!

京都・醍醐寺 霊宝館を訪れたら、門内にあるフレンチ・カフェ「Sous le surisier(スゥ・ル・スリジェ:桜の樹の下で)にも立ち寄りたい [撮影:寺社Now編集部]

文:セイジィ・キヨフジ(TVプロデューサー・ジャーナリスト)
NHK「日曜美術館」ほか「着信音礼!ケータイ大喜利」「岩合光昭の世界ネコ歩き」「ダークサイドミステリー」(いずれもNHK)などメディアの現場で約30年、番組制作を中心に美術館の企画協力、展覧会やアーティストの取材も多数。また、陰陽師としても活動している。
▪Youtubeチャンネル〈読み解くアートTV〉https://www.youtube.com/@kiyofujiseiji

会期
2024年6月15日(土)〜8月25日(日) ※会期中に展示替えあり
開館時間
10:00 – 17:00(入場 16:30まで)
休館日月曜日、7/23(火) *7/15(月・祝)、8/12(月・祝)は開館
公式サイトhttps://nakka-art.jp/exhibition-post/daigoji-2024/
会場
大阪中之島美術館(4階展示室)
住所
〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1
06-4301-7285 大阪市総合コールセンター(年中無休 8時~21時)
醍醐寺HP

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監修:全国寺社観光協会

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