下北半島の先端、青森県の大間(おおま)といえば日本屈指のマグロの産地として知られている。屈強な漁師たちが命をかけて一本釣りしたマグロが大間崎周辺の飲食店や宿でも楽しめる。
その大間に禅宗の宿坊が誕生した。地元や東北エリアのテレビや新聞でもたびたび取り上げられ、ツナ(マグロ)好きのアメリカからCNNがはるばるやってくるなど国内外の取材もひっきりなしの人気の宿となっている。銀座あたりの高級寿司店で注文したらいくらになるかわからないような生のマグロをはじめ、地域特産品を活かした食事や、檀家や地元の人たちの協力で境内でマルシェや寺ヨガ、音楽フェスなども開催する、元甲子園球児で活きの良い若い僧侶との交流も大きな魅力だ。
そんな「おおま宿坊 普賢院(ふげんいん)」の人気の裏には、過疎地でいかにして寺院と地域が生きて残っていくのかの挑戦物語があった。
平成30年(2018)4月に誕生した「おおま宿坊 普賢院」は、大間の港町からほんの少し山に入ったあたりに位置している。港町にあり、マグロ漁師の檀家を数多く持つ曹洞宗大澗(だいかん)山福蔵寺の別院で、木々に囲まれた三千坪の広大な敷地に普賢延命菩薩、薬師如来、不動明王を祀っている。その敷地内にある「佛光庵(ぶっこうあん)」が、1日1組を存分にもてなす宿として活用されている。
境内の庭園を眺めながら瞑想できるサンルーム、鳥の声で目覚めるベッドルーム……静寂のなかにコテージのように佇むこじんまりとした木造の宿泊棟。ゲストはこの贅沢な環境で時を過ごし、希望すれば坐禅や写経などのプログラムを体験することもできる。三密など無縁の世界だ。