人類共通の遺産が目の前で無残にも破壊され、音を立てて崩れ落ちていくあの衝撃の映像が忘れられない。奇しくも、あれからちょうど20年。2001年にタリバンに破壊された、バーミヤンE窟仏龕及び天井壁画《青の弥勒》をはじめとする至宝の数々が、東京藝術大学が誇る最先端スーパークローン文化財の技術で復元制作され、初公開の運びとなった。
暗く沈んだ世界に救世の光をもたらす未来仏、それが弥勒(みろく)だ。「弥勒」とは、サンスクリット語「マイトレーヤ(Maitreya)」の音写で、「慈しみ」を語源とする。仏像誕生の地ガンダーラの弥勒像、仏教東伝に大きな役割を果たし、あの三蔵法師も拝んだアフガニスタンの弥勒菩薩像・・・弥勒は、現在仏であるゴーダマ・ブッダ(釈迦)の次に現れて悟りを開き、多くの人々を救済する。
会場には、東京藝術大学が誇る最新のスーパークローン文化財の技術をもって原寸大復元したバーミヤンE窟仏龕天井壁画の《青の弥勒》や敦煌莫高窟275窟交脚弥勒菩薩像を中心に、バーミヤン東大仏天井壁画《天翔ける太陽神》、法隆寺金堂9号壁「弥勒浄土図」が一堂に会し、まさにそこは弥勒の世界。
弥勒像誕生の地ガンダーラから、シルクロード経由で海を渡って東方の日本にまで至った「弥勒の姿をたどる旅」を体験することができる。西遊記でおなじみの三蔵法師・玄奘(げんじょう)をはじめ、真の仏法を求めて西域シルクロードを命がけで旅した求法の高僧たちがこの展覧会を目撃したら驚愕するにちがいない。
ちなみに本展は「東京藝術大学アフガニスタン特別企画展」(2015年)、「素心伝心 —クローン文化財 失われた刻の再生」(2017年)に次ぐ、文部科学省が推し進める「革新的イノベーション創出プログラム」事業の成果発表の場となる展覧会でもある。
寺社Nowではこれまでにも、藝大のクローン文化財に注目してきたが、いよいよそのクライマックスを迎える。特別展「みろく—終わりの彼方 弥勒の世界—」は、未来仏・弥勒の姿を通じて、未来からのメッセージを受け取り、そして未来を創造するきっかけの場となるだろう。
それでは、次ページ以降で会場へとご案内しよう。
いざ、弥勒の姿をたどる旅へ!