■東京藝術大学大学美術館「みろく–—終わりの彼方 弥勒の世界——」図録シリーズ
最先端スーパークローン技術を駆使して人類共通の遺産を復元している東京藝術大学COI(センター・オブ・イノベーション)による「みろく–—終わりの彼方 弥勒の世界——」展の開催を記念して、実際に現場で制作に携わった諸先生方によるレポートをシリーズでご紹介します。
※本展は「東京藝術大学アフガニスタン特別企画展」(2015年)、「素心伝心 —クローン文化財 失われた刻の再生」(2017年)に次ぐ、文部科学省が推し進める「革新的イノベーション創出プログラム」事業の成果発表の場となる展覧会で、当記事は東京藝術大学COIより特別に許可を得て公式図録から転載するものです。下記の記事とあわせてお読みください。
SDGsとスーパークローン文化財
文:林 宏樹(東京藝術大学特任助手)
2020年、世界は新型コロナウィルスによるパンデミックに見舞われ、現在もその渦中にある。海外への渡航は規制され、ほとんどのツーリズムはかなわないものとなった。室内に籠ることが奨励されても、多くの情報が手に入るこの時代において、時が止まるような閉塞感を覚えることはない。
しかし、街の様子は時が止まるどころか、その変化を加速させている。多くの人に愛された老舗や有名店の経営が危ぶまれ、その文化的な価値に終止符を打つ例は少なくない。いつまでもそこにあることが当たり前と思いがちな、歴史的なものが不意に消えてしまう。それでもいいと人は嘯くだろう。なぜなら文化財のその尊さと、今後の社会に必要とされているかどうかは別の問題だからだ。そのような無関心から文化の持続性は低下していく。
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた持続可能な開発目標である。掲げられた17のゴールと169のターゲットの中で文化財に関連する項目は11-4の「世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。」のただ一つだけだ。文化遺産の保護・保全には費用がかかるため、その予算の捻出には文化観光に頼らざるを得ない事例も多い。そのために、文化財は過酷な環境に曝されることを余儀なくされる。
日本でも、観光・教育資源としての文化財公開に対する社会的なニーズの高まりなどを背景に、2018年1月29日に文化庁が国宝・重文の取扱要項を改定し、年間公開日数を大幅に延長させた。絵画は物理的な接触の他、日光や空気と触れるだけでも退色が進むため、公開日数の増加によって今後より一層、作品の劣化が早まることが危惧されている。このように、SDGsの目標に対して文化財を取り巻く現場が抱えている課題は多い。