資産家の旧邸宅が門前町入口の新たな顔に
聖地身延山は、江戸初期には128坊もの宿坊が並び、昭和40年代までは全国から訪れる参拝客で大いに賑わっていた。総門を入った門前町の目抜き通りには、大型バスが列をなすほどだった。
今回、まさにその門前町の顔ともいえる重要な場所に誕生した迎賓館えびす屋は、身延山随一と言われた資産家の築90年の旧邸宅をリノベーションした古民家の宿として注目を集めている。
リノベーションを担当したのは、創業1156年、神社仏閣の堂宮建築に長く携わってきた地元山梨の「伝匠舎 石川工務店」。
森の中を流れる川のせせらぎに包まれ、文化財としても価値ある木造平屋建てのその空間は、レトロで味のあるガラスが印象的な丸窓や格子窓戸、名工が手がけた欄間をはじめそこかしこに明治・大正期の意匠が見え隠れし、優雅な陶器製のバスタブや腕を振るいたくなるアイランドキッチン、もちろんWi-Fiも完備され、快適な滞在が約束されている。
また、宿泊もできるレストランを意味する“オーベルジュ”を名乗るだけあって、食事も見逃せない。玄関を出てほんの数秒、旧邸宅の敷地内にしつらえたカフェレストランの厨房で、一流シェフが地元食材をふんだんに盛り込んだローカルガストロノミーを創作する。身延山の豊かな自然、ゆったりとした空間と穏やかな大人の時間を心静かに味わうことができる。まさに比類なき一棟貸しのオーベルジュとなっている。
注目の古民家オーベルジュ「迎賓館えびす屋」誕生の裏には、宿坊街の未来を憂える一軒の歴史ある宿坊の女将の秘めたる決意があった。