古民家再生を、まちのにぎわい復活のきっかけに
迎賓館えびす屋は、古民家再生とにぎわい創出によるまちづくりの核となることが期待されている。プロジェクトの仕掛け人は、身延山久遠寺の塔頭寺院で42代つづく宿坊「覚林坊」の女将・樋口純子さん。
彼女が覚林坊へ嫁いで30年が経つ。その間、自坊を含め徐々に活気を失っていく宿坊街の行く末を按じ、次第に不安を募らせていた。そして、実は数年前から、まずはやれることからと本拠地である覚林坊の改革に着手していた。
「息子が近い将来、覚林坊を継ぐことになっています。しかし身延山にはかつてのような賑わいがないし、宿坊群も元気がありません。このままではこの先、どうやっていけばいいのだろう、と不安しかありませんでした。
そこで私にできることは何かあるだろうかと考えたときに、お寺のことは僧侶でないと変えられないけれど、賑わいをつくることなら、ひょっとしたらできるかもしれない、と夢のようなことを考えたのです。それから3、4年で覚林坊のほうは、なんとか以前より多くの方に来てもらえるようにはなりました。欧米のお客様に多数ご利用いただけるようになり、ワシントンポストの取材も受けました。でも、うちが元気になったところで、それだけでまちに活気が戻って来るわけではなかったのです」
覚林坊の女将・樋口純子さん。「私の役目は人と人とをつなぐこと」と言う
過疎化や地域住民の高齢化もあり、営業を縮小したり閉じる宿坊や店が出てきていた。純子さんが悲しんだのは、歴史ある宿坊や店が営業を辞めると建物がたちまち解体されて更地になったり、シャッター街になっていくことだった。
ただ黙って見ているしかないのか。手をこまねいて衰退していくのを見届けるしかないのか。何かできることはないのだろうか……。
そんな悩みを持ち続けていた純子さんのもとへ、ある日、門前町の入口にある文化財級の邸宅を活用しないかと打診があった。
「建物や細部の意匠に、大正、昭和の素晴らしい建築の技が残されていました。古くてあちこち壊れているが、これはなんとしても残さなければ。この再生が、まちの未来につながるかもしれない!」
古民家再生の宿が注目されて収益が出る実例を作ることができれば人がまちを訪れ、伝統の宿坊街を守ることにつながるかもしれない……。悩んだ末に、老後のためにコツコツと貯蓄していた資金をすべてはたいて購入することを決意。それまで覚林坊の女将として培ってきたネットワークを活かして仲間たちを募り、歴史的資源・地域資源を活用した寺町活性化のプロジェクトも立ち上げた。