「昭和40年代のお遍路ブームで寺院に多くの人が訪れるようになった時、寂れていく町と、逆に賑やかになっていく寺院との間に不協和音が出ました。今回もそうであってはいけません。岩本寺の体験コンテンツやしまんと古書街道は、町と寺院が、共に歩みを進めて動き出した企画です。町の人と観光や遍路の人、どちらにもおもしろい!と思ってもらえ、町にお金が落ちる仕組みを、まだまだ考えています」
今年の夏休みまでには、東南アジアの街角で見かけるオート三輪・トゥクトゥクでレンタカー事業もスタート予定だ。これは岩本寺の事業だが、乗っているだけでも楽しいレンタカーで町をめぐってもらう、町にも貢献していける取り組み。
伝統を守るために、時代に応じていく
並走する二つの事業に窪住職が中心的に関わることで、バランスを取りながら四万十町でしかできない体験を創り上げていけている、岩本寺としまんと街おこし応援団の例。窪住職も町の商店の跡継ぎたちも、「自分の代から次の世代に家業も町も引き継ぐために、どうすれば町が元気になるか」を課題として抱えている点は同じだが、住職がここまで積極的に関わる理由は何なのか?
「寺院はこれまで何のために存在し、これからどうあるべきかを自問自答してきました。故人の菩提を弔うことは寺院の役目ですが、それは生きとし生けるもののためでもあります。また、寺院は町のために活動する場所であり、僧侶もまた同じ役割を持っているとも思います。悩んだ結果、多くの方々が町を訪れ、寺院を利用し、楽しんでもらえるよう、地域のために一肌脱ぐべきだと考えるに至りました」
より多くの人が四万十町を楽しみに訪れ、体験を満喫してもらえること。この楽しみは生きていることへの感謝につながるはず。これは、窪住職の考える仏の教えでもあった。
「寺院には創建以来の伝統が息づいています。私は住職として、それを次世代へ伝えていきたいと考えていますが、伝統を次世代へ伝えられる形で守っていくためには、時代に合わせた対応もひとつの手段だと思います。それが宿坊の改修や体験コンテンツを増やすことであり、また町おこしに寺院として協力していく理由です」
町の人と寺社が手を取り合って、人を呼ぶ作戦を立てて実行し、地域を元気にしていく。シンプルだが実現は難しくもあるこの考え方に正面から挑み続ける窪住職と町の人々。音頭を取るのは住職だが、主役は町の将来のために汗をかく、メンバー全員だ。「まだまだ、物語の序章です」と窪住職が言う、町と寺院の本気で楽しいチャレンジが始まった。
真言宗智山派第37番札所岩本寺
住所:高知県高岡郡四万十町茂串町3-13
電話:0880-22-0376