千年愛!生まれ変わっても会いたい…と住職は微笑んだ。奈良国立博物館「国宝 聖林寺十一面観音〜三輪山信仰のみほとけ」展の魅力と秘密

そもそも今回の特別展は、2つの大きなタイミングが重なって奇跡的に実現した。

1つは、東京オリンピック・パラリンピックである。コロナ禍の影響で1年延期となったが、もともと本展は、文化庁の海外向け日本文化紹介事業「日本博」並びに文化庁・宮内庁・読売新聞社による官民連携「紡ぐプロジェクト」の一環として、東京オリパラをターゲットに企画された。

もう1つは、聖林寺の事情だ。国宝中の国宝「十一面観音菩薩立像」をこれから先も守り伝えるために、老朽化の進んだ観音堂の大規模な改修と耐震工事が急務とされていた。そのためのクラウドファンディングも実施していた。この2つのタイミングが重なって、昨年、県外初出座となる東京国立博物館へ、そして観音堂の工事期間を利用して、今回の奈良博での特別展が実現の運びとなった。

現在工事中の聖林寺観音堂完成イメージ(2022年秋完成公開予定)

まさに奇跡的なタイミングと言えるが、聖林寺住職の「このような展示で観音さまをご覧いただくことは、この先ありません」が意味するところは、ただ単にそれだけには留まらなかった。というのは、奈良博での十一面観音の展示方法が、昨年の東博とも、またこの秋に完成する聖林寺の新しい観音堂とも異なり、最初で最後の今回限りの展示方法だというのだ。

「奈良博は、ガラスケースのない露出展示です。聖林寺十一面観音を360度ぐるっと全方位から、それも〝生〟で感じることができます。このような展示で観音さまをご覧いただくことは、この先ありません」(倉本明佳住職)

なるほど、東京展はガラス越しだった。とはいえ、ただのガラスケースだったわけではない。反射の少ない極めてハイクオリティな透明度を誇るケースだった。実はこの特殊なガラスケースは、東京から奈良の聖林寺へと運ばれ、新しい観音堂に設置される。現在その準備中のため、奈良博ではガラスケースなしの露出展示が採用されることになった。

十一面観音は、疫病で人心が乱れていた8世紀当時、東大寺の造仏所で制作されたと考えられている天平時代の木造彫刻である。この国宝中の国宝とも言われる美仏が、1カ月半以上にもわたる開催期間中に露出展示される。セキュリティはもちろん、館内の温度や湿度の管理、照明の調整など、博物館スタッフの苦労は計り知れない。

しかしそのおかげで、まさに千載一遇とも言える絶好の機会となる。何の遮るものもなく、生でその魅力と息づかいを感じることができるのだ。数々絶賛されてきた右手の指先の表情から、腰のくびれや纏衣の優美な曲線の流れるさま、背面からの美も、余すことなく感じることができる。

観音さまの肉感的なたたずまいまでも感じ取っていただける、貴重な体験となるでしょう」(倉本住職)

「肉感的な」……実際に生で見ればわかる。肉づきが良く、男性的とさえ言える。聖林寺の十一面観音を紹介する文章に、よく「日本のミロのヴィーナス」といった形容がされるが、それは実像を見ていないか、あるいは見えていないことの証とも言える。百聞は一見にしかず。今回、奈良博の360度露出展示で、幸運にもそれを体験できる。

写真はいずれも「国宝 十一面観音菩薩立像」 奈良時代 8世紀(奈良・聖林寺蔵)

最後に聖林寺住職が「観音」の意味を語ってくれた。

観音は〝音を観る〟と書きます。音は聞くものなのになぜ〝観る〟なのか。観音さまは、『南無観世音菩薩(なむかんぜのんぼさつ)』と3回唱えれば、地球上のどこにいても助けに来てくださる仏さまです。ぐるっと後ろに回ってご覧いただくとわかると思いますが、十一面観音は後ろにもお顔があって、11のお顔で四方八方を観て、聞いて、必ず助けてくださいます

仏像はアートであってアートではない。それは信仰の対象として守り伝えられてきた。コロナ禍で人々の心や社会の安寧が乱れている今だからこそ、より深く意味を持つこともある。博物館での出会いが、ご縁を結ぶきっかけにもなる。

この秋、新しい観音堂が完後して、ひとたびそこに十一面観音が安置されると、以後は千年先の未来へ伝えるため「少しの埃もつかないように、もうこの先ずっと、観音さまを聖林寺から動かすことはありません」と住職は強く語る。

そして、ちょっとはにかむように表情を和らげて、こうささやいた。
今から千年後、また人に生まれ変わったら、この観音さまにお会いしたい」と。

変わらぬ愛と祈りが、過去と現在、そして未来をつなげていく。

写真左は、奈良国立博物館の正面壁面ディスプレイ。右は、会場にて聖林寺(奈良県桜井市)倉本明佳住職と国宝十一面観音菩薩立像。特別展の開幕前日、開眼法要で奈良博を訪れてディスプレイを見上げた住職は、「かつて三輪山で一緒だった仏像たちが、同窓会で150年ぶりに再会する。そんなイメージにぴったり」と目を細めた。かくいう倉本住職と国宝十一面観音も、昨年東京国立博物館に送り出してからこの日は実に5カ月ぶりの再会であった。住職は前夜、「明日はひさしぶりに観音さまに会える…」と興奮して眠れなかったという

国宝 十一面観音菩薩立像 木心乾漆造り、漆箔 像高209.1cm奈良時代 8世紀 奈良・聖林寺蔵

開催概要

会期2022年2月5日(土)〜2022年3月27日(日)
会場奈良国立博物館(奈良県奈良市登大路町50)
https://www.narahaku.go.jp/exhibition/special/special_exhibition/202202_shorinji/
時間9:30〜17:00 (最終入場時間 16:30)※毎週土曜日は19:00まで開館
休館日月曜日
2月7日(月)・21日(月)・28日(月)、
3月22日(火)
観覧料一般 1,400円(1,200円)
高大生 1,000円(800円)
小中生 500円(300円)
※本展は日時指定制ではありません
問い合わせ050-5542-8600 (ハローダイヤル)

 

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監修:全国寺社観光協会

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