聖地身延山に誕生!1日1組限定の古民家オーベルジュ「迎賓館えびす屋」に託した宿坊女将の願い

『みのぶ「自我自参」プロジェクト』と題した詳細な企画書を作成。補助金や助成金の獲得に向けて動き出した。タイトルの「自我自参」には、誰もが自分流でお寺にお参りできる、そんな参詣スタイルを確立したいという思いが込められている

集いし人々のスキルがプロジェクトを推進

再生プロジェクトには、地元農家やシェフ、アーティスト、それに脱サラの若い移住者まで多彩な顔ぶれが並ぶ。いずれも純子さんの思いに共感して集まったメンバーだ。そもそも、彼らはなぜ身延山に集まってきたのか。

話は6、7年前にさかのぼる。

「身延山の宿坊といえば、以前は団体バス旅行が中心でした。ところが世の中が個人旅行の時代になっているにもかかわらず、門前町も宿坊も、その変化についていけてなかったんです。宿坊でいえば、覚林坊も含めて、部屋のつくりや食事のスタイルが団体仕様のままでした。時代に取り残されてしまっていたんです。

このままではいけない……。
あるときようやく気が付きました。

そこで、個人のお客さまをお迎えする態勢にシフトしたのです。今となってはそれまでしていなかったこと自体が驚きですが、大手旅行サイトに登録したのはもちろん、東京や鎌倉を訪れている外国人旅行者を呼び込むために、それまで和室でお膳だったお食事をテーブルで召し上がっていただけるようにもしました。いつでも英語で対応できるようにワーキングホリデーで来日している外国人スタッフを雇い、ほかにも身延山に興味を持ってくれる若い人たちに来てもらい、さまざまな体験を用意しました。すると、個人客対応が可能になっただけでなく、驚いたことに次第と宿坊全体に活気が出てきたのです」

数年経ち、宿泊客の約4割が外国の個人客になり、口コミも手伝って、客が客を呼ぶ理想的な連鎖も生まれてきた。古くから働いてくれているおばちゃんたちの英語力がアップするといった、嬉しい副産物まで生じた。

外国人だけでなく、日本人の個人客も増えてきた。特に若い世代が二度三度と再訪してくれるようになり、そのうちに純子さんにいろいろ相談するゲストも出てくるようになった。そしてついには、身延山に移住して、覚林坊で働くケースまで出てくるようになった。人が、人を動かした。

「相談してくれる人の中には、私にはとても真似のできないいろいろなスキルを持っている人たちがいて、そのうえで夢を持って移住先を探している人もいました。そんな彼らと接しているうちに、覚林坊が彼らの夢を実現する足がかりになっていこうと思ったんです。移住の希望があれば、私が地域の方とつなぐようにしました」

夢の応援。
まち再生のプロジェクトが動き出すのは、いよいよここからだ。

気がつけば覚林坊に、若いエネルギーとやる気が自然と集まっていた。彼らが、純子さんの挑戦を強力にバックアップすることになる。

プロジェクトを前に進めるためには、細々とした膨大な準備や段取りが求められる。行政関係の書類作成や営業、外国人観光客との英語でのやりとりなど、メンバーそれぞれが得意分野でその能力を思う存分に発揮した。女将ひとりでは決して実現することはできなかったであろうハードルを次々と乗り越えた。

資金面では、観光庁が推進している宿坊を基点とした観光まちづくり政策「寺泊」事業の補助金の獲得や、農林水産省が推進している「農泊」の振興交付金を受けるなど、本来なら繁雑で膨大な事務処理もチームでこなした。

こうして食事も楽しめる一棟貸しの古民家オーベルジュ「迎賓館えびす屋」は、地域活性化の起爆剤となるべく、開業に向けて加速度を増していくことになる。

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監修:全国寺社観光協会

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