文:宍戸厚美 SHISHIDO,Hiromi
フリーライター
花手水研究会メンバー
除疫・授福の神である牛頭天王(ごずてんのう)を祀り、全国に3000以上も点在する津島神社の総本社がここ、愛知県津島市にある〝お天王さま〟こと、津島神社だ。毎年7月に開催される「尾張津島天王祭」は、かの織田信長も天王川の橋の上で見物したとされる由緒ある行事として知られている。
愛知は、全国的にも山車まつりが特に盛んな地域で、ユネスコ無形文化遺産代表一覧表「山・鉾・屋台行事」に記載されている全国33件のうち5件が愛知県内に所在している。そのうちの代表格、津島神社の天王祭は、5艘の巻藁舟(まきわら・ぶね)と6艘の車楽舟(だんじり・ぶね)が奉納され、地元の人たちの心の拠り所にもなっている。
しかし、ここ最近の4年間は、台風とコロナウィルス感染症蔓延の影響で、残念ながら中止が続いている(2022年は、伝統の継承のため巻藁船・車楽舟のお披露目を行う予定)。
そんな津島神社が「花手水」を始めたのは、2020年秋のこと。
「感染対策として、手水舎ではひしゃくの使用をやめ、パイプで水を流す形に代わりました。それがとても味気なく思えて…。せっかく来てくださった参拝の方々に、どうか穏やかな気分になっていただきたいと、神社内で話し合い、花の力を借りることにしたのです」と話すのは、同神社の禰宜・中野敬太さん。
こうして、日頃から参拝者を増やすためのさまざまな活動をしている“神社のファンクラブ”・崇敬会にも賛同と支援を得て、毎月1日の朔日参りに合わせ、花手水をスタートすることになった。
津島神社の花手水は、6名の巫女が2名1組でチームとなり、交代制で行っている。毎月のテーマは担当チームが考え、テーマに沿った花を生花店に6~7種類ほど用意してもらい、花の大きさや色合いなどを見ながら、1回あたり30分ほどかけてバランスよく配置していく。
最初は花を切るのも「これで大丈夫かな?」とドキドキしていたというが、今では手慣れた様子で、動画を撮るためスマホをセットし、どんどん花首をカットしていく。「きれい!」「かわいい!」「美味しそう(?)」と声を上げて、楽しげに花を浮かべていく様子は、完成した花手水を見に訪れる参拝者とまったく同じ様子でほほえましい。
「花手水は、お花屋さん任せでなくて、巫女が活けることに意味があると思っています。彼女たち自身が花手水に癒され、楽しんでいる気持ちが、そのままInstagramの投稿にも表れているのではないでしょうか」(禰宜・中野さん)
インスタで花手水の投稿をするようになってから、フォロワーも2600人に急増。回を重ねるうちに、花手水目当ての参拝者が増え、閑散としていた境内にも華やかな笑顔の花が咲くようになった。
津島神社では、花手水の予想以上の反響の大きさに、2022年4月から毎月2回、1日と15日に実施することを決めた。加えて、夜間ライトアップの実施についても検討している。
「今も昔も神社は人の集まるコミュニティです。花手水をきっかけに人が集まり、それぞれがその月の神様にご挨拶をして、日々に感謝し、その月の安全を祈る。コロナ時代の心の拠り所となれたらうれしいですね」(禰宜・中野さん)
途切れた祭事の代わりに、参拝者と神社を繋ぐ大切な役割を担った津島神社の花手水。心の平穏を願う人々の想いが、そこにみずみずしく彩られている。
【津島神社 花手水データ】
実施日:毎月1日・15日
※毎月1日は、朔日参り限定の御朱印頒布あり
※手水舎は南と東の2か所にあるが、花手水は南側
※時期や状況によって変更あり
【全国天王総本社 津島神社】
住所:愛知県津島市神明町1
公式HP:https://tsushimajinja.or.jp/
instagram:https://www.instagram.com/tusima_official/
Faceboo::https://www.facebook.com/110308208065764
◆Vol.4 Text by 宍戸厚美(ししど ひろみ)
愛知県在住のフリーライター。大学卒業後、広告制作会社でコピーライター、雑誌編集プロダクションでライターとして勤務した後、フリーに。現在は、企業のブランディングを中心に、東海三県の観光や歴史、企業紹介記事の執筆を行っている。花手水研究会メンバー。
▼寺社Nowオンライン連載「寺社彩々!花手水に誘われて」(花手水研究会)バックナンバー