※「エゴ・ドキュメント」とは、一人称で語るドキュメントです。
語り:京仏師 宮本我休(みやもと・がきゅう)
学生時代に服飾技術を学び、卒業後京都の仏像彫刻工房にて彩色を手掛けたことをきっかけにこの世界に入る。9年間の修行の後、平成27(2015)年4月に独立、京都・西山に工房を構え、「宮本工藝」を設立する。現在は京都市南区に工房を移し、弟子3人と共に日々仏像や仏具、その他木彫刻の研究、制作に励む。服飾技術を活かしたリアリティある衣紋表現を得意とする。(平成27年度 京の若手職人「京もの認定工芸士」認定番号第128号)
地方のあるお寺様からのご依頼です。
檀家様のご自宅が全焼してしまったそうです。「お寺として何かできることはないだろうか」と、我がことのように心を痛めたご住職は、「焼け残った材木でお釈迦様を彫像してお渡ししたい」と思うに至りました。そしてこの我休にお声がけをいただいたという次第です。
さっそく、現地を訪ねました。
残された材木を見ると、たしかに外側は焼け焦げていますが、幸いなことに中まで火は通っておらず、しかも欅(けやき)の良材でした。彫像は十分可能です。
仏師の世界に入って10年余り。佛(ほとけ)様をお迎えしたいという方々のさまざまな想いを感じてきましたが、こういったご依頼は初めてのことです。宗教的意義と仏師としての使命感を強く感じました。
仏教は、泥の中から咲く美しい蓮の花に仏性(ぶっしょう)を見ます。焼けて朽ちかけた木の中から、仏性を見いだすことができるのか。そんな思いと覚悟で、仏教の開祖「釈迦如来」像に挑むことにしました。
なお今回、ご依頼主様よりご快諾をいただきましたので、〝佛(ほとけ)〟がどのようにして生まれるのかを知っていただこうと、こうして皆さまにお伝えすることにしたわけでございます。